マシュセリ

つがいの旅人

 広間での宴会は、明け方まで続いていたらしい。らしい、というのは、セリスは深夜になる前にその場を抜けていたからだった。
 ワインと料理を平らげてから、しばらくソファーでティナと昔のことを話していたのだが、やはり疲れからか眠気が襲ってきてしまった。そこでティナが膝枕をしようかと言ってくれたのだが、エドガーが会話に混入してきてしまい、呆れながらもセリスは寝室へ向かうことにしたのだった。
 広間から出た瞬間、しんとした夜の空気が体を包む。砂漠の夜は静かで、冷たい。

(さて、どうしようかな)

 既にリルムたちがいる客室に向かうか、どうしようか。しかし最後の夜だし、好意に甘えるのも悪くはないだろう。
 セリスはマッシュの部屋を目指してゆっくりと、階段を下りた。一人になると、色々なことを考えてしまう。昔のことや、シドのこと、ケフカのこと、魔法のこと。
 だがそれもすべて終わった。今は、これからの世界での身の振り方を決めなくてはならない。ティナかカイエンならば、共に歩ませてくれるだろうか。或いはサマサでも良いかもしれない。

(でも旅が終わったのに仲間の荷物になるのって、嫌だな)

 もちろん、荷物になどなるつもりはないのだが、あまり頼りすぎてはいけないだろう。

(ひとところにいるのは、やめようか。世界中で人助けの旅、とか? ちょっと恩着せがましかしら)

 そうこう考えつつ、かつかつと靴音を鳴らしながら歩いて、マッシュの部屋までたどり着いてしまった。
「あの。殿下に、こちらのお部屋を使ってよいと許可をいただいていて」
 近くに立つ衛兵にそう言うと、特に深く突っ込まれもせずに了承された。
「お休みなさい、良き夜を」
 にこ、と衛兵たちはみな優しく笑って、そう言葉をかけてくれた。
 備え付けのシャワールームも借りて、セリスは薄手の服装でベッドに潜り込んだ。
「わ……本当にふっかふか」
 寝具自体が高品質なのもあるが、とにかくスプリングが凄い。帝国で寝ていたベッドは、ここまでふかふかではなかったように思う。

(兄貴のベッドと負けず劣らず、か)

 それはマッシュが間違いなく王族で、エドガーと同様に次期フィガロ王として取り扱われていたことを表していた。もしかしたら、彼は眠りにつく度に、王族だという圧力に晒されていたのかもしれない。
 枕に抱きつき、マッシュの気持ちを想像してみたが、推し測ることすら難しい。暗いところを微塵も見せないし、既に彼には王族としての立ち居振る舞いの半分以上が抜け落ちている。いや、それすらも本当は隠しているだけなのか。

(……エドガーもマッシュも、大人だな……)

 女性に対する口説き癖や、子どもっぽい振る舞いすらも、実はすべて計算なのでは、などと思う時もある。

(……いや、どっちも普通に素なのかしら)

 どちらも深く考えての行動には見えないから、やはり素なのかもしれない。だが、彼らは己の行動の影響をよくわかっているのだと思う。
 世界が崩壊してから、旅の中で暗い気持ちになってしまった時に限って、彼らはそうした一面を見せてくれていた。エドガーは言葉で、マッシュは行動で。セリスを励ましてくれた。マッシュのにかりと無邪気に笑った顔を見ると、ひどく安心できた。

(すごくすごく、救われた)

 旅の最初から、今日まで。彼がいたから、ここまで来れた。彼から、身に余るほどたくさんのことを貰った。だから、今度は違う人たちに分け与えてほしい。

(ああ、そうね。今日だけは素直になりましょうか)

 本当は、そうではない。いや、たくさんの人を救ってほしいというのは本音だ。だが、忘れないでほしかった。彼がセリスという一人のひとにも、多くを分け与えたということを。そして、そのひとが。

(そのひとが、貴方を好きだったということを)

 目元にあたる枕がわずかに濡れていた。しかし、睡魔には勝てない。セリスはそのまま沈むように眠ってしまった。

コメント

  1. 以前からのストーカー より:

    大好きな作品ばかり先に掲載されて感涙です!
    先日も書き込みさせていただきましたが、きれいな文章、特に情景や心情が浮かぶような言葉選び?が大好きです
    (口づけは…、だと ようやくそばにいられる、みたいな)
    更新は気長にお待ちしてますので、無理しない程度に頑張ってください!

    • いつもありがとうございます~!わたしの原動力です。
      修正できているものから更新しているので、どうしても文庫収録予定のものからになっております。
      改ページの方法を覚えたので、あとは複数作品掲載したときにちゃんと探しやすくなるか、試行錯誤していきたいと思います…
      お褒めの言葉、本当に嬉しい限りです~…言い表せない感謝…
      恐れいりますが、サイトの整理がつくまで今しばらくお待ちください。

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