マシュセリ

お寺に来たキミ


 得てして、歴史が激しく動くきっかけというものは、とても些細なことだ。
 帝国がわずかな地域でもドマを支配していた時代は、短い時間だった。ある女の出奔と、駆け込み。そして、大義を掲げた報復。駆け込み寺にとっては、慣れた流れのことだ。だが、その行為は大きな川のようにドマをまとめあげることとなった。
 帝国がドマから完全に撤退するまでに、二年はかからなかった。噂では現在、皇帝が病にかかり、床から出られない状態になっているという。帝国は世襲制を取らぬ国なはずだから、ケフカは日々、権力をもぎ取られる恐怖に怯えていることだろう。あるいは、蛇のように次の玉座を狙っているかもしれない。

(こんな感じのことを書き記すのでいいのかな? うーむ、わからん)

 我が身についても記すべきだろうか。少し長くなりそうであるが、大まかに私の周囲のことについてなら話しておくことにする。
 私は駆け込み寺のいち僧侶だった。だが一連の騒動により、次期師範と見込まれていた男が寺を去ったことで、私がその座に収まることとなった。その男というのは、私のよき友であり好敵手で、元々はドマの者ではなかった。出身地を詳しく聞いたことはなかったが、寺を去る日にこそりと行き先である故郷の名を教えてくれた。薄々気づいてはいたのだが、彼は西の国の身分の高い者だったようだ。
 故郷で自分の道場を開く、と彼は笑って言い、旅にはたった一人の連れを伴って去ってしまったのだが、その二人の後ろ姿のなんと仲睦まじいことか。彼はただの道連れだと言っていたが、あれは違うと思う。あの空気は、情愛がなければ醸し出せるものではない。
 ところでその答え合わせは、つい最近することができた。先日、彼からドマに来るという手紙を貰い、引退した師匠夫婦と楽しみに待っていた。だが、奥方が御子を授かったことがわかったそうで、旅行を断念したという旨の手紙が送られてきたのだ。
 もう少し早く授かっていてもおかしくはなかったと思うのだが、念には念を、ということだろう。なにしろ、彼の奥方はわずかな期間とはいえ人妻だったのだから。
 しかし、幸せそうな彼の笑顔を思うと、こちらも頬が緩んでしまうのだった。きっと彼はあの美人な奥方と仲良く過ごしていることだろう。
 私も前師匠夫婦から結婚を勧められているが、私の仕事は縁切りだ。男から逃れてくる女を頻繁に見ているこの己が、一体どうして女を一ヵ所に繋ぎ止めようとできるだろう。
 そう考えると、駆け込み客だった女を己の妻君とした彼は、ほとほと素晴らしい人柄だ。男女の禍を知りながら、それでも共に歩むことを決めたのだから。

 乞い願わくば、彼らの道筋に困難の少なきよう。この祈りを祝いとし、今宵は書を閉じることとしよう。

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