セツセリ

あなたは天使を信じますか?

 書き終わった記事を、かねてよりの依頼者であるフィガロカンパニーに手渡ししに行った帰り道で、俺は再び天使に出会った。
 今さらその姿に驚いたりはしなかったが、俺一人の時を狙って現れることには腹が立った。
「今度は何の用だよ、天使サマ」
「次の仕事は断ったのね」
「おまえがそうしろって言ったんだろ」
「人間は不思議だわ。天使なんて存在を信じるんだから」
「羽が生えてるおまえの方がよっぽど変だっての」
裏通りを進む俺の後ろをふわふわ浮きながらついてきて、天使は困ったような顔をする。
「おまえ、俺以外には見えるのか?」
「たまに、見える人もいるみたい。でも普通は見えないわ」
「レイチェルには?見えるのか?」
「死期が近い人には見えるわ。その人の関係者も一時的に死が身近になるから……貴方のように見えるようになるの」
「じゃあなんでレイチェルに顔を見せないんだよ」
 レイチェルは信心深い人間だった。神はいるし、天使もいると信じている。この天使がレイチェルの前に現れて、死因を説明してくれれば。
 そこまで考えて、俺はどきりとした。
「……レイチェルさんは、私の言葉を受け入れるだけでしょうね」
「ああ……」
 俺は否定できなかった。
 レイチェルなら、そうしかねない。天使が、貴方はもう寿命なのだと言えば、それが自然なことだと受け入れかねない。
「レイチェルは、どうして死ぬ?」
 ずっと気になっていたことを天使に問う。だが、返事はない。
「なぁ、教えろよ」
 苛々しつつ天使を振り向くと、またも天使は困った顔をしていた。
「……頼む、教えてくれ」
 俺はレイチェルを救いたい一心で、そう続ける。天使は顔を背けた。
「できない」
「どうして!」
「貴方がどの選択をしても結果は変わらない。ただ過程が変わるだけ」
「……つまり、死因は断定できない?」
 こくりと頷かれ、俺は愕然としてしまった。
 ならば助ける方法は、ないのだろうか。
「くそっ!なんでレイチェルが……!」
 それは俺の心の声と言っても良かった。何故レイチェルが死ななければならないのだろう。レイチェルは優しい、普通の娘なのに。
「なんとかできないのかよ……」
 例えば代わりに俺が死ぬとか。ふと考えて、俺は天使を見上げる。
「……消えやがった」
 天使は既に、その場にはいなかった。
 一言くらい言ってから消えてくれよ、と悪態を吐きつつ、俺は暗い気持ちで帰路を急いだ。
 
 

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