セツセリ

あなたは天使を信じますか?

「な?やっぱり怒られただろ」
 セッツァーが黒い翼を震わせながら、そう言う。
「……うん」
 仕事熱心なセリスは、セッツァーよりもショックが大きかった。天使長があんなにも怒るなんて思ってもみなかったからだ。
「貴方まで付き合わせてしまって……」
「俺のこたぁ良いんだよ。慣れてるからな」
 良いんだか悪いんだか、とセリスは思わず笑う。
「だが、わかっただろう。あまり干渉するなってな。人間には人間の生がある」
「……運命として定められた生のこと?」
「運命が先か、人間が先か……哲学みてぇな問いだな。俺には答えはわからん。俺はただの天使だからな」
「でも私より経験があるわ」
「俺は黒だからな。普通の天使とは思考回路が違うんだ」
「それ……ただの天使、っていうのと矛盾してない?」
 ふ、とセッツァーは皮肉めいた笑みを浮かべた。相変わらず天使らしさが欠片もない顔だ。
「ただの黒天使、なんだよ。俺は」
 セッツァーははぐらかすのが上手い。有無も言わせない口調だった。セリスは続けて尋ねることができなくなる。
「アンタだって、ただの白天使だ」
「……ええ」
「特別な力なんてねえ、ただの天使だ。出過ぎた真似してみろ、すぐに終わらせられるぞ」
 終わらせられる。その言葉はなによりも天使の心を揺さぶる。
「セッツァーも気をつけてよね」
「余計なお世話だ、あほ」
 悪態づいてから、セッツァーは翼を広げた。セリスのより一回り大きい、立派な翼だ。
「じゃあな」
「仕事?」
「たりめーだ。さっきのマイナス分を補わねえと終わらせられちまう」
 ぶわ、と風が抜ける。それに乗って、セッツァーは飛んでいった。
「……私も行かなきゃね」
 セリスも白い翼を開いて、風に身体を預けた。

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