マシュセリ

Lost Memories

「……で、貴方たちは?」
 凍てつくような鋭い目で、セリスは立ち並ぶ四人の男を見上げた。
 たじろぐだけの四人と、それを睨みつけるセリスを見て、ティナが慌てて仲介する。
「元リターナーの、仲間たちよ。覚えてないと思うけど」
 引き合わせるのが早すぎたか、とティナは変に汗をかきながら思ったが、記憶を取り戻すきっかけになれば良いと思ってのことだった。
「どうかしら、……なにか思い出せることとかはある?」
「いや。誰も知らないな……」
「おや? 私はフィガロ王エドガーだが、わからないかい?」
 セリスはやけに目を細めて、エドガーを見つめる。
「嘘をついてないか、この男? 一国の王が、こんなところにいるものか」
「確かに今、国政は臣下に任せてはいるが……世界がこうなった原因を叩かないと、いくら政に精を出しても意味はないからね」
 優しい声色で諭すエドガーを、尚もセリスは睨んだ。
「……フィガロ王の髪は金ではなかったか?」
「うっ」
 エドガーは、盗賊団の頭領として装っていた頃に染めた髪の色が、未だに戻っていないのだった。銀の髪もよく似合っているが、そういうことはセリスには通じない。
「で、でも本物なのよ。色々あったの、エドガーは」
 焦りぎみのティナの助け船は、効果抜群だった。セリスはしぶしぶ頷く。ティナの言葉は信じてくれているらしい。
「え、えーと……それで、こっちがエドガーの双子の弟、マッシュ」
「双子? あまり……似てないな」
 セリスはじろじろとマッシュの身体を見回す。
「だが体つきは良いな。気に入ったぞ」
「なんで上から目線なんだ……?」
「今更染みついた癖は変えられないようだ、許せ」
「う~ん。いかにも将軍サマ、って感じだな……まあ、いいけどよ」
 マッシュは困ったように前髪を撫でつけている。実際、戸惑いは誰よりもあるのではないだろうかと、ティナは思った。世界崩壊後、帝国時代からすっかり変わったセリスと一番長くいたのは、他ならぬマッシュだったのだから。
「マッシュはずっと貴女と二人で旅していたのよ」
 ティナがそう付け足すと、ふうんと適当な返事が返ってくる。あまり興味がなさそうなので、ティナはつい、苦笑いしてしまった。
「……ええと。それから、こっちはロック。帝国から離反してサウスフィガロに捕らえられていた貴女を助けた人よ」
「私の命の恩人ということか?」
「そうね」
「……随分とひ弱そうだが、本当なのか?」
「ひ弱って、おまえな……」
 今まで深刻そうな顔をしていたロックは、呆気にとられたように肩を落とす。そんなロックを見て、セッツァーが愉快に笑った。
「なんだ。減らず口は相変わらずみたいだな、安心したぜ」
「貴方は?」
「俺はセッツァー・ギャッビアーニ。この飛空艇の主であり、アンタの恋人さ」
「まさか。それは嘘だろう」
 俄に慌てた周囲をよそに、セリスは簡潔に否定する。
「もう少しマシな嘘をついてほしいものだな。見るからに私より弱いだろう、そういう男には私は興味がない」
「せ、セリス……人は強さだけがすべてじゃないわよ?」
「そうかもしれないが、弱いより強いことの方が良いに決まってるだろう。なあ? ええと……」
 同意を求めて、セリスはマッシュの方を見上げた。
「……マッシュだよ」
「そう、マッシュ。貴方もそう思っているから、そんなに鍛えているのだろう?」
「う~ん……それはちょっと違うかなぁ」
 え、とセリスは不思議そうに目を瞬いた。
「弱いやつは弱いままでいいんじゃねえのかな。無理する必要はないし……弱いことは悪いことじゃないだろ。だから、そういう人たちを守るために、俺には強さが必要なだけで、……うまく言えなくて悪いな」
「あ、ああ……いや」
 わずかにセリスはたじろいで、目を逸らした。それにエドガーが目敏く気がつき、苦笑を浮かべる。
「……どうやらまだ本調子ではないようだね。我々は一度出直そう。ティナ、後は頼むよ」
「ええ」
 それからセリスはしばらく、黙っていた。

 仲間集めもまだまだ中途であるが、旅のはじまりを引っ張ってきたセリス本人の記憶が戻らなければどうしようもない。飛空艇の中は静かだった。


 セリスは確かにセリス本人に違いない。だが、リターナーに連れ込んだロックすら知らない彼女。誰のことも知らず、誰も彼女を知らない。
「……どうしたら戻るんだろう」
 はあ、とマッシュはため息をついた。そもそも戻るという言い方が正しいのかどうかすらも誰にもわからない。
「記憶喪失か……」
 セリスの頭からは、すべて消え去ってしまった記憶。存在すら抹殺されてしまったなんて、誰が悪いわけでもないとわかっていても、どうにもやるせなかった。
「マッシュ?」
「うん? ティナか。セリスは?」
 ふるふると頭を振ると、ティナの緑のしっぽが揺れた。
「一人にしてって言われたの」
「そうか……まあ一番混乱してるのはセリスだもんな」
「そうよね……」
 しゅんとするティナに、どうにかマッシュは笑いかける。
「きっとすぐ記憶は戻るさ」
「……ええ」
「それまで頼んだぜ? ティナだけが唯一の知人なんだからな、セリスにとっては」
 ティナは強く頷いて、笑った。


「セリスが記憶喪失か……」
 ロックは自室で四肢を投げ出すように寝転びながら、呆然として呟く。
 自分のことを忘れられてしまうことは、ロックにとっては初めてのことではない。
「……この空しさは慣れないな」
 彼女の頭からぽっかりと抜けたもの。自分たちの記憶。
 忘れたかったとわずかでも思っていたからなのか、などと考えたのは一度や二度ではなくて。
「二度と傍を離れない……記憶を取り戻してやるまで、必ず」
 ロックは拳を握りしめて、固く、誓った。


 セリスの記憶はなかなか戻る様子がなかった。そもそもこれは単にあの怪我のショックのせいなのか、それとも罠自体の効果だったのか。
 唯一幸いなのは、彼女の戦いの腕に影響がなかったことだった。鬼気迫る戦い方に違和感はあったが、強さそのものは変わらない。そうして皆がやや安堵する中、セリスだけは穏やかならざる心持ちだった。

「どう? なにか感じたりは?」
 頬についた魔物の体液を手の甲で拭いながら、ティナの問いにセリスは首を振った。
「別に、なにも」
「そう……」
 明らかに落胆しているくせに、それを見せまいとするティナを見て、セリスの胸中にはただ苛立ちばかりが募っていく。
「すまないな。なにも思い出せなくて」
「ううん、無理しないで」
「わかっている」
 剣を鞘に収め、セリスは無表情に返す。
 仲間たちはみな、記憶が戻ってほしいと思っているのは、わかりやすすぎるほどに、わかっていた。
 だが、セリス自身はそうは思っていない。無い記憶のことはわからないし、想像すらできない。そんな得体の知れないものは要らないし、今の自分は確かに自分自身だったからだ。
 それなのに、胸を張ってそれを皆に言えないのもまた、確かだった。『未来の自分』と呼称している本来の自分は、そんなに今の自分と違っているものなのだろうか。あまりに突拍子もなくて、考えもつかない。
「ないない尽くしだな……」
 ふ、とセリスは自嘲気味に笑った。

 そんな中で、意外とセッツァーとは打ち解けることができていた。彼は記憶の有無に大してこだわる素振りが全くなかった。
「別に、いいんじゃないか、そんな程度のことは気にしなくて。俺はアンタみたいな気の強い女が好きだしな」
「……未来の私は、気弱にでもなっているのか?」
「いいや、全然。……まあ、ちょっとばかしマイルドにはなってたかもしれんが」
「どういう意味だ……」
 くっく、と笑いながら、セッツァーはダーツの矢を投げた。それは見事に的の真ん中に刺さる。
「ま、どっちでもその顔は変わんねえしな。俺の好みだ」
「……つくづく貴方という人間は」
 口ではあきれた風に言ったが、実際はセッツァーの言葉は清々しいものがあった。
 中身はどうでも、外見は変わらない。それを言い切られて、やはり自分は自分なのだと少し安心した。
「……貴方は、私の恋人だと嘯いていたな」
「ああ、それが?」
「実は本当だったりして……、と少し思ってな」
「それは、どうだかな」
 たん、と最後の矢が的に刺さった。また見事に真ん中だった。投げ終えて、セッツァーはにやりと笑って振り返る。
 何故だか顔は傷だらけだが、整った方ではある。以前はこういう男は鼻について嫌いだったが、気安く話せる相手とわかった今、そんなに毛嫌いするほどでもないように思う。
 そうか、とセリスは不思議と理解した。こういう風に、自分は変わっていったのかもしれないと。
「確かめてみなけりゃ、わからんかもな。……どうする? 試してみるか?」
 セリスはくすりと笑む。
「いや、遠慮しておこう」
 おや、とセッツァーは意外そうに目を見開いた。
「記憶が戻って、後悔したくはないからな」
「ふうん、未来のアンタに遠慮するってことかい?」
「……そうは言っていない」
「……ま、別に。アンタがツレないのは今に始まったことじゃないしな。俺は構わんが……せっかくだし、もっと楽しんだらどうだい? 記憶喪失なんて、そうそうなれる状態じゃないしな」
「別に、私は……」
 セリスは言葉をうまく紡げず、壁に視線を向ける。
 記憶が本当に戻る時は来るのか。それはわからないが、もしその時が来たら、今の自分はどこにいくのだろうか。モヤモヤとしながら、セリスはセッツァーの部屋を後にした。

「なあ、これはどうだ?」
 机に並べられた無数のガラクタ、というのは少し憚られるが、やはりガラクタと形容するのが正しいのだろうか それを見せながら、ロックはセリスにしきりにどうかと尋ねてくる。
 部屋に呼ばれたと思ったら、ずっとこれだ。なにも思い出せないし、いい加減首を振り続けるのにも飽きてきてしまう。
「じゃあこれは?」
「……わからない」
「んー……そうか」
 困ったように頭のバンダナの辺りをかき、ロックは腕を組む。この男は、やたらと記憶を戻させようと躍起になっているように見受けられた。
「……もうやめないか?」
 うんざりとして、セリスはそっと提案してみる。だが、ロックはいいやと首を振った。
「もーちょっとだけ! な」
 いやだ、と断りたかったが、記憶を忘れてしまった負い目のようなものがあって、セリスは渋々頷くほかなかった。
 ロックはおもむろにバンダナをほどいた。
「じゃあ最後に。これは?」
 そして、それをセリスに突きつける。
「バンダナ? ……」
 懐かしい、ような気がした。だが気のせいと片付けられる程度のほのかな感覚だ。
 またこの人はがっかりした表情をするんだろうな、と思いながらも、セリスは首を横に振る。
「そっか……」
 目に見えて、ロックは目を伏せた。胸に苦いものを感じ、セリスは立ち上がった。
「……もういいな? 終わりで」
「あ、ああ……悪かったな」
 セリスは足早に、部屋を出る。ロックと一緒にいると、よくわからない感情が身体をざわつかせた。それはひどく不快で、なんとなくロックを避けてしまう原因のひとつだった。
 記憶が無くなったのは、私のせいではないのに。セリスの胸にはただそれだけが浮かんだ。

「お、セリス?」
 俯きがちに廊下を歩いていると、背後から声がかかった。この二人は声が似ていて識別に困る。セリスは振り向いてから、ようやく彼を認知した。
「マッシュか」
「うん。名前は覚えてくれたんだな」
「貴方は見た目が特徴的だから」
 ふ、とセリスは笑ってマッシュを見上げる。
「そうだなぁ。見下ろされるのはあんま慣れてなさそうだもんな」
 にこりと屈託なく笑み、マッシュは腰に手を当ててセリスを見た。見下ろされるのは嫌いなのだが、不思議と彼にはそんな感じはしない。彼のまとう空気が穏やかだからだろうか。いや、能天気なだけなのかもしれない。
「あ、そうだ。今時間あるか?」
「え? ああ……まぁ、あるが……なんだ?」
「紅茶でもどうかと思ってさ」
 う、とセリスはわずかにたじろぐ。またロックのように記憶を無理矢理引っ張り出そうというつもりなのかと、疑ってマッシュを見上げると、しかし彼からはなんの悪意も見えなかった。いや、悪意がないのはロックも同じなのだ。だから警戒を怠ってはならない。
「……少しだけなら」
 それなのに、気がついたらそう返事していた。マッシュは優しげに目を細めて頷いた。

 マッシュの使用している部屋は全体的にこざっぱりとしていて、ふわりと良い香りが漂っていた。
「花の香り……?」
「ん? ああ、そうだよ。やっぱ花に敏感なとこは変わんないんだな」
 茶器を用意するマッシュの広い背中を見つめると、何故だか既視感がある。初めてみるものなはずだ、と、その気づきは胸の奥に押しやった。
「あ、適当に座っててくれよ」
「ああ」
 きょろきょろとしつつも、セリスはベッドに浅く腰掛けた。どうしてだろう、居心地が良い。逆にそれが気味悪いほどに、気負うものがない。
「……私は、貴方と長らく旅をしていたという話だったな?」
 大きな背中に問いかけると、彼はとくに振り向くこともなく単調に返す。
「ああ、そうだよ。それが?」
「多分……それなりに打ち解けていたのだろうと思って」
「どうして?」
「どうしてって……」
 彼自身は正解を知っているはずなのに、とセリスは眉を寄せた。その不服な顔の目の前に、ずいっと品の良い花柄のカップが差し出される。
「はい」
「……ありがとう」
 やや熱い茶を静かに飲み、その香りに言い様のない懐かしさを覚えた。それもそのはず、この味の紅茶は昔からよく飲んでいる。懐かしくて当然だ。
「口に合うか? フレーバードティだけど」
「そんなこと。……貴方はわかっているのだろう? いちいち聞かないでも良いはずだ」
 苛立ち紛れに言い返すが、マッシュは穏やかな笑みを崩すことはなかった。
「どうして俺が知っていると思うんだ?」
 え、とセリスは思わず返す言葉に詰まる。こうして自分を部屋に招いたのも、紅茶を注いでくれるのも、すべて初めてではないはずだ。そうでなくては、色々と辻褄が合わない。
「……最初に……打ち解けていたのだろうと思った、から」
「だから、それがどうしてなんだ?」
 ぎっ、とベッドが深く沈む。マッシュが隣に座ったからだった。マッシュの声は、呆れた風でも急かす風でもなかった。ただセリスに問いかけるだけ。
「……花、のこと。私は他人に言ったことはない」
「そうなのか」
「それに……これは私の一番好きな紅茶だ。貴方が知っている理由は、私が話したから以外にないだろう」
「そうだな」
 そうして頷くだけのマッシュを咄嗟に睨んだが、包み込むようなその眼差しに逆に圧されてしまった。
「……どういうつもり?」
「どういうつもりって、別に……そんな睨むなよ」
 その表情や言葉には、やはり敵意は微塵も感じられない。
「ただ、始めからやり直せばいいと思ってさ」
「なにを?」
 ふ、とマッシュはやわらかに笑む。そのあたたかな笑顔は、ずっと以前から知っていたような気がした。
「全部を、かな」
 そうしていきなり無邪気に口角を上げたと思った途端、マッシュはセリスの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「なっ、なにを……っ」
「ティナ以外でさ、もう少し俺らのことも信用しろよ。な?」
 上から覗く碧の瞳に射抜かれ、セリスは半ば呆然とする。
 この人は、確かに未来の自分と仲が良かったのだろう。それは間違いないと思えた。そして、また新しく、今の自分ともやり直してくれると言った。この男との時間をどれだけ失ったのか、自分は知らないのに。
「セリス」
 優しい声色に、どきりとする。目の前の陽気な男は、理由もなくこの心を乱す。
「……な、なんだっ」
 気づけば、髪を撫でる手つきもまた、ひどく優しかった。
 大体、この距離感はなんなのだ、とセリスは困惑した。近すぎる。それなのに、嫌でない。心の底がこの近さを嬉しがっているような気がする。黙っていろ、とその気持ちをもう一度、胸の奥底に沈めた。
「……ゆっくり、な。あんま急がなくていいんだ。おまえはおまえなんだから……」
 まるで彼自身に言い聞かせるかのように、マッシュはそう言った。
「……わかって、いる。そんなことは……」
 何故だか、ひどく苦しかった。こちらに向けられた目はこの体を通り抜けてしまっているようで、ただ切ないくらいに苦しかった。

「……それで、私の元に来たわけを聞かせてもらおうかな?」
 にこやかに笑うエドガーは、染めたと言っていた髪色が元に戻っていた。金の目映い髪を強く撫で付けて問う彼に、セリスは不躾に返す。
「聞きたいことがあってな」
「ふむ、なんだろう? 好みのタイプというのは具体的にはないのだけど……」
「申し訳ないが……貴方の好みではなく……未来の私のことだ」
「ああ、つまり私が知っている君、のことだね」
 エドガーの部屋は、細かな部分にまで手の込んだ内装が施されていた。置いてある椅子は恐らくマッシュの部屋のものと同じものだが、独自に肘掛けがつけ足されている。
「とりあえず、掛けなさい」
 言われるがまま、セリスはその椅子に座った。その瞬間、エドガーの蒼い目がやわらかくなる。
「……君はやはりその椅子が好きなようだね」
「え?」
「君はいつもそこに座って、私が改造したその肘掛けを褒めてくれていた。もしかしたら、体が覚えているのかもしれないな」
「体が……」
 確かに、そういうことはあるのかもしれない。セッツァーにも、この外見は変わらないと言われた。今信じられるのは、この肉体の、無意識の行動なのかもしれない。
「……それはさておき、私が聞きたいのはだな。私と貴方たちの関係なのだ」
「関係?」
「その……セッツァーが前に言っていただろう。恋人だとかどうだとか」
「ああ……まさか信じてたのかい?」
「いや、そういうわけではなくて……あの人が私とそういう関係だったというのは嘘だろう。だが、万が一本当であれば……私は酷いことをしているのではないかと思って」
「酷いことか……まあ、そうだね」
 ふ、とエドガーは形容し難い表情で笑う。何を考えているのか読み取れないところが、この男の怖さだなと、セリスは思った。よく見れば確かにマッシュと似ているのに、その表情は似ても似つかない時がある。
「それで良いと思うよ、私は」
「は?」
 くっく、と今度は至極愉快そうに喉を鳴らし、エドガーはちらりとセリスを見やった。
「忘れたのは君のせいじゃないし、今を生きているのは、君だ。遠慮せずに新しい恋でもしたら良いよ」
「……こ、恋などという浮わついたことなど、興味はない」
「ははは、セリスらしい言葉だね。少し懐かしいものがあるよ」
 飄々とするエドガーには何を言っても意味がないことは、最近わかった。セリスは頬を膨らませて、エドガーをやや睨む。
「……貴方には気にする必要もなさそうだな」
「酷いなぁ。そうかもしれないし、そうではないかもしれないよ。……何れにせよ、選ぶのは君だがね。……私はいつでもウェルカムだが」
「……変な男だな、本当に」
 呆れるやら清々しいやらで、セリスはわずかに苦笑した。

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