ゴミ箱

Second fantasy

 殺気立つ、会場。その準備室の椅子に腰かける体躯のよい男は、のんびりと欠伸をしていた。
「くつろいでんのかよ、こんなとこで……」
「ん? ああ……眠くなってきちゃってさ」
 呆れ顔の、やや年若く見える男がその隣に座る。
「呆れるぜ、まったく……おまえって本当にマイペースだなぁ」
「そういうロックだって、なかなか帰ってこなかったじゃないか?」
「おいおい、それは違うぜ! ……これに、ちょっと手間取ってね」
 腰の辺りから、ロックは何か輝くものを取り出す。赤い、綺麗な石だった。
「そんな嫌な顔するなよ、マッシュ」
「するさ。また盗んだんだろ?」
「イヤミな富豪からしか盗ってないんだから、いいじゃないか。それにこれがないと明日の飯にも困るんだからな?」
 正論のようなロックの言葉に、尚更マッシュは顔をしかめた。
「何のために俺がこんなとこに来てると思ってるんだよ」
「わかってるさ。でも万が一、優勝賞金もらえなかったら本当にヤバイだろ」
「おまえなー……さっきまで「おまえなら絶対勝てるぜ!」って言ってたのを簡単に翻しやがって……」
 はあ、とわざとらしくため息を吐き、マッシュはじと目で隣のロックを見た。ロックは眉を上げる。
「それには理由があるんだよ!」
「ふーん?」
「ちゃんと相手の情報をサーチしたんだ。そしたらさ……」
 がちゃ、と準備室のドアが開け放たれた。ロックはそちらをちらりと見やり、慌てて次の言葉を飲みこんだ。
 部屋に現れたのは、金の長い髪を高めに結った、細身の剣士だった。怖いくらいに整った容姿で、男とも女ともつかない。が、多分服装からするに男だろう。その青年はきょろ、と室内を見回し、その切れ長の碧眼をマッシュに向けた。
 その刹那、ぞわりとマッシュの身体全身に、悪寒が走る。
 青年は、二人の座る椅子へ近づいてきた。
「失礼だが」
 その唇から出た声の美しさは、想像に易かった。
「……なんだ?」
「あなたがマッシュか」
「ああ、そうだが……」
「決勝で戦うことになりそうだから、挨拶しておく。よろしく」
 よろしくもないだろう、というくらい無愛想に、青年は言い放った。
「よろしく」
 反対に、マッシュは無理やりにでも笑んで応えた。青年はとくに気にする様子もなく、すたすたと部屋の奥へ行ってしまった。
 黙りっぱなしだったロックが、ようやく口を開く。
「わかったか? あいつだよ、俺が本当にヤバイと思う相手」
「ああ……」
「セリスっていう、剣士らしい。あんな見た目だが、超強い。帝国の大臣お抱えの剣士だそうだ」
「へぇ」
 今、帝国で流行っているのはお抱えの傭兵の強さを競いあうことだった。
「つくづく、こっちじゃ考えられない趣味だよな」
 マッシュもロックも、帝国の生まれではない。その隣国、王国出身である。
「……多分だけど、俺……あいつには負けないぜ」
「はぁ? おまえ、俺の話聞いてたのか? あいつすごく強いんだぞ」
「聞いてたさ。でも、あんな瞳のやつには俺は負けない」

コメント

タイトルとURLをコピーしました